東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)72号 判決
一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。
まず、原告は、本件考案における合成樹脂には第一引用例に用いられているような接着剤に対して拒否性能を有する合成樹脂は含まれない旨主張し、被告は、本件考案における合成樹脂についてそのような限定はない旨主張する。
ところで、一般に、合成樹脂をその特性からみた場合、そこに弗素樹脂又はポリエチレン樹脂のように接着剤を拒否する性質をもつもの(無極性樹脂)と、塩化ビニール又はポリエステル、ABS樹脂のように容易に接着剤を受け入れる性質をもつもの(有極性樹脂)とがあることは、当裁判所に顕著なところである。
そして、成立について争いのない甲第三号証によれば、第一引用例においては、弗素樹脂又はポリエチレン樹脂のような無極性樹脂の接着剤に対する拒否性能を利用して貼紙を困難にするため、シート主材としてこれらの無極性樹脂を選んでいるものであることが認められ、また、右のような無極性樹脂を採用したために、この合成樹脂シートを電柱に装着する場合に「該シート2をもつて捲付けて、その両端をネジ止め又は熱融着する」(同号証第一頁右欄第一、二行目)という方法をとらざるをえなかつたものであつて、そこには、接着剤を用いてシートを直接電柱に接着するという方法は予定されていなかつたものと認められる。
これに対し、成立について争いのない甲第一号証(本件考案の出願公告公報)によれば、本件考案においては、「この合成樹脂板2を電柱に接着させる。」(同号証第一頁2欄第五、六行目)ものであり、また、本件考案が、電柱ばかりでなく配電塔、橋脚等の建造物に対する貼紙防止をも目的としており、このことから平面的にも取り付けられるものであると認められるところ、これらの事実をあわせ考えれば、本件考案における右の「接着」とは、接着剤を用いて接着するものと解するのが相当であり、本件考案のカバー主体としては接着剤を受け入れ易い塩化ビニール等の合成樹脂を用いるものであることは、技術上明らかといわなければならない。そして、同号証の記載によれば、本件考案は、カバー主体に接着剤を受け入れ易い合成樹脂を用いるとその表面に貼付けられた貼紙も堅固に接着して剥離し難くなり所期の目的が達成できないために、カバー主体表面に小突起あるいは凹凸を設けることによつてこの欠点を除去したものとみることができる。
また、審決が説示し被告が主張するように、本件考案の「その他の合成樹脂」に第一引用例のような接着剤を拒否する合成樹脂が含まれると解すると、その表面に小突起等を設けることが技術上あまり意味のないこととなるので、この点からも、本件考案における「その他の合成樹脂」は、塩化ビニールのように接着剤を受け入れ易い合成樹脂に限られるものと解されるのである。
なお、被告は、無極性合成樹脂シートでも接着剤による接着を可能とする技術手段すなわちシートになんらかの表面処理を施すことによつて接着剤の親和性を向上させ、接着させることが可能であるから原告の主張は理由がない旨主張し、乙第一ないし第三号証を提出しているが、なるほど、接着することのみについてみれば、表面処理加工を施すことによつてそれは可能であるかもしれないが、これとて、有極性合成樹脂の接着と比較すれば、その容易性、信頼性において格段の差異があることは明らかであり、また、前記のように、もともと接着剤を拒否するものに重ねて小突起等を設けること自体が技術的にあまり意味のないことであるから、被告の右主張は、本件考案における合成樹脂の限定解釈を排除するに足るものとはいえない。
さらに、本件考案の明細書における被告指摘の「コンクリート面と異なり、貼紙が貼り難い」との記載も、有極性合成樹脂といえどもコンクリートの粗面と比較すれば貼紙が貼り難いことが常識上疑いのないところである以上、前記解釈を動かすに足りない。
以上のとおりで、本件考案における「その他の合成樹脂」の中に接着剤を拒否する性質を有する合成樹脂も含まれると解し、右解釈を前提としてした審決の判断は誤りであり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかであるから、その他の点について判断するまでもなく、審決は、違法として取消されるべきものである。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註〕 本件登録実用新案に関する事項は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四二年五月一二日登録出願・昭和五二年八月三一日設定登録にかかる登録実用新案(考案の名称「貼紙防止カバー」。以下、「本件実用新案」といい、その考案を「本件考案」という。)の実用新案権者であるが、被告が、昭和五二年一二月二三日、特許庁に対し、本件実用新案の登録を無効にすることについての審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁昭和五二年審判第一七〇八七号事件として審理したうえ、昭和五六年一月三〇日、「本件実用新案の登録は無効とする。」旨の審決(以下「審決」という。)をし、その謄本は同年二月二一日原告に送達された。
二 本件考案の要旨
塩化ビニール、その他の合成樹脂板2が、縦横に適宜の間隔を保つて小突起3あるいは凹凸を備えて成る貼紙防止カバー。